 西部劇は男のドラマである。英雄物語といってもいい。西部劇史上で最もヒーローとして名高いのがワイアット・アープであり、『トゥームストーン』はアープの物語である。ワイアット・アープの映画は他にもいろいろあるが、この映画が他のアープ
映画と大きく異なるのは、敵対者をクラントン一家でなく、カーリー・ビルとジョ
ニー・リンゴーにしていることだ。そして出来うる限り史実に近づけようとしていることだ。
最初にモノクロ映像でこの映画の舞台となるトゥームストーンの説明がある。このモノクロ映像には、史上最初の西部劇映画『大列車強盗』が挿入されているのだ。西部劇ファンにとって、見逃すことのできないイントロであり、これだけでも価値がある。
 カラー映像に変わり、カーリー・ビルとジョニー・リンゴーが登場する。カーリー ・ビルは、アリゾナ南東部東地区の牛泥棒（牧畜を業とするが、仕入れは盗み）の
リーダー。その黒髪が巻毛だったので“カーリー”と呼ばれていた。西地区の親分
オールドマン・クラントン（アイクは息子）が死んでからは、この一味も手下とした。アリゾナ南東部では彼らのことをカウボーイと呼んだが、牧童の意味でなく、アウトローの意味に近い地域の特殊用語なのだ。この映画でも出てくるが、拳銃の銃杷
を相手に向けて差し出し、おとなしく銃を渡すふりをして、相手の油断をみはからっ
て銃をスピンさせて騙まし射ちするテクニックを彼の名をつけて“カーリー・ビル・スピン”という。アウトローらしい名前の残し方だね。
ＯＫコラルで一味がやられると、アープ兄弟殺害の賞金を出し、部下に命じてバージルとモーガンを闇射ちする。兄弟ふたりをやられたアープは追跡隊をつくって、あとを追い、両者はバーレイ・スプリング（アイアン・スプリングスいう説もある）で遭遇し、アープのショット・ガンに射たれて死んだ。一説には彼はメキシコへ逃げたというが、再び彼をアリゾナで見た者はない。
 次ぎにジョニー・リンゴーであるが経歴不明。記録が残っていないのだ。ただ判っ
ているのは、南部の出身で教育レベルは高く、つねに格調の高い英語を話し、シェークスピアなどの古典を愛読していたとのこと。西部人にはめずらしい高い教育を受けているドク・ホリデーとよく似ているんだな。このことは、この映画の伏線になっている。３人の無法者に兄を殺され、西部の町々を仇をたずねて歩き、出会ったときには、たっ
た３発で彼らを仕止めた。まるで『駅馬車』みたいだって？ ハァイ、『駅馬車』のリンゴ・キッドはジョニー・リンゴーのエピソードをモデルにしているのです。
１８８０年頃トゥームストンに現れ、カーリー・ビルの相棒となった。カーリー・
ビルがリーダーとして君臨できたのは彼の頭脳に負うことが多いとされている。酒が好きで、トゥームストンではよく深酒をしていた。それは楽しみとしてではなく、おのれを苦しめ葬るためだったという。
 恐れを知らぬ彼にはアープも一目おいており、彼が決闘を挑んでもアープは断ったという。ＯＫコラルの決闘は、もともと計画的なものでなく（個々のトラブルから互
いに敵意はあったが、実力行使に出るほどのものでなかった）、誤解と酒の上でのいさかいに短気が加わって起こった偶発事件だった。計画的なものなら、彼も決闘に参加していただろう。
１８８２年３月にカーリー・ビルがアープに倒され、７月にジョニー・リンゴーも死んでいる。サルファ・スプリングの樫の木の下で頭を射たれた死体となって発見された。原因および犯人については不明。この映画では犯人はわかるけど、それは見てのお楽しみ。
 ガンマニアとってうれしくなるのは、ＯＫコラルの決闘でアープがバントライン・スペシャルを使用することだ。バントライン・スペシャルは人気作家ネッド・バントラインがカンサスの名だたる保安官たちに贈った銃身が１６インチ（約４０センチ）のコルトの特製拳銃。アープの愛用銃として有名なのだが、映画ではお目にかかることが少ない。
ラストのナレーションで、アープの葬式にハリウッドのスター、ウィリアム・Ｓ・ハートとトム・ミックスが参列し、トム・ミックスが泣いたとあるが、アープとトム・ミックスの出てくる映画があるのだ。この二人がハリウッドで起
こった殺人事件に巻き込まれる『キャデラック・カウボーイ』というコメディ・サス
ペンスである。 アープにはジェームズ・ガーナーが扮している。
草創期のハリウッドでの西部劇の製作状況が楽しめる変則アープ映画。興味があっ
たら観てほしい。 |
